ファイナンスで日本企業に力を

ファイナンスで日本企業に力を

事業会社のファイナンスについて書いてみる

当ブログでは、事業会社におけるファイナンスについて、時間あるときに書きます。

そのため「ファイナンス」といってもファンドやVC、金融系とは被る部分があるものの基本的に趣を異にします。

 

書く内容は、これまで経験してきた「現場」「現物」「現実」がベースですが、個社や個人に迷惑がかからないよう下記現場での内容をMIXして書きます。

監査法人やコンサル時代の複数のクライアント企業での実際。

外資グローバル企業でコントローラーとして経験した実際。

・複数のスタートアップ企業でマネジメントとして経験した実際。

・複数の日系上場企業で経験した実際。

 

次に、テーマである「事業会社におけるファイナンス」とは、下記図のように経理財務及び会計税務に縛られない領域を指します。広すぎるという見方があるかもしれないが、ファイナンス部門は組織横断的に全社の企業価値向上に責任を負うべき部門と考えます。

 

個社ごとにファイナンス部門がリードしている業務は異なりますが、「数字」を預かる機能を持っているファイナンスがより多くの業務に関わり、企業価値向上に大きく貢献できることは外資グローバル企業で実体験済みなので、確信を持ってPUSHしていきます。

日本のCFOファイナンス部門の管掌領域が狭すぎる、というのはもう15年以上(もしかするともっと)昔から言われている課題。今もあまり変わってない。この状況は日本企業におけるROE等の財務指標が欧米諸国と比較して低くなっている要因の1つだと捉えています。ファイナンスパーソンには是非色々な領域に口出しをして欲しいです。一緒に頑張りましょう!

 

最近でもこんな問題提起の記事をよく見かけます。ホントに10~15年前の課題から変わっていない。「これを何とかしたい」などと偉そうなことは言えませんが、少なくとも自分は広い役割を担うCFOとしてチャレンジを続けます。

news.yahoo.co.jp

 

 

最後に、IRの枠では表現しきれないことも書きたいと思っていますが、上場企業の情報は当然ながらインサイダーに当たるものは一切書けないので、充分に注意して。

上場企業のファイナンスの人間がSNS等で発信するのは結構な勇気がいる活動なので、アドバイス頂ける方がいるとありがたいのですが・・・

何れにしても、現場経験に基づくファイアンスとしての志や取組みについて記すことで、「ファイナンスで日本企業を元気にしたい」と考える方の一助になれば大変嬉しいことです!

 

ファイナンスで日本企業に力を(後半)

前半から続く

 

なぜ、勢いや熱量のあるスタートアップではなく、

なぜ、報酬が高く優秀人材が揃う外資系企業でもなく、

長い歴史のある日本企業に外から飛び込んでチャレンジをするのか。

 

それは、社会に出てからの20年間で、日本企業の国際競争力の停滞を目の当たりにしてきたからでもある。

 

日本株株価指数は様々なメディアで拡散されているとおり、世界株が伸長する中で停滞。いわゆる「失われた30年」になるわけだが、ビジネスマンとして世に出て以降の2002年から今に至るまでの努力は何であったのか。

https://www.wealthnavi.com/contents/column/53/

 

2002年といえば就職氷河期真っただ中で、大学(学部)卒業者の就職率が69.7%(内閣府調査)。平年より10%ポイント以上も就職率が低い世代。同世代の従業者が少ないことだけが理由では無いはずだが、コロナ禍以前は、午前様が当たり前な働き方であった。それだけ懸命に働いた結果がこれだ。周りにも同じような働き方をしている人間が多かったにも拘わらず・・・

名目GDPも同じ。国としての「稼ぐ力」が伸びていない。同様のグラフは様々あるが、端的で見やすいのでWealthNaviから引用させてもらった。これでは「安くブランド品が買えるから日本に買い出し旅行に行こう」となるのは当たり前だ。

https://www.wealthnavi.com/contents/column/53/

 

経済が伸びない、国としてのGDPは2022年時点でいまだ世界3位にあるが、一人当たりGDPは世界で約30位。労働人口が減り、生産性も低く、稼げないのだから当然ながら給与水準も、他の先進国の後塵を期す状態にある。ヨーロッパ駐在時の経験から言うと、ヨーロッパ諸国の人間は「ゆったり」働いていた。それでも給与水準は日本よりも高いし、彼ら彼女らの経済が止まるわけでもない。成果物のクオリティが低いわけでもない。要は日本の生産性が低いことの表れなのだろう。

OECD「平均賃金」

 

日本では近年、モーレツに懸命に働く風潮は古い(というか認められない)「空気」になってきた。その熱量では、この状況は恐らく直ぐには改善しないだろう。

インターネット産業で他国に対して大きく出遅れたように、強く、素早く変化できるカルチャーとも言えない。硬直した社会、企業、教育では難しいのかもしれない。

 

ただ、悲観的なことばかりではなく、日本には日本の、日本企業には日本企業の良いところがある。

 

即ち、製品やサービスの品質が高いこと。

生産的ではないかもしれないが仕事が緻密で丁寧なこと。

これは明確に強みだ。

BtoCに限ったことではなく、BtoBのビジネスにおいても同じ強みがある。

 

米国とヨーロッパで生活し、アジア等々の諸外国を見てきた感覚からすると、山手線のような秒刻みの列車運行ができる国は他に無いだろう。自動車産業を中心に、製造業が日本経済の成長を牽引したのには、そういった「高い品質の強み」も背景にあったはずだ。海外に行けば、どこに行っても日本メーカーの車が走っているし、ひと昔前は家電はSONYPANASONICTOSHIBAなど、空港や店舗の至るところで見られた。

 

そのような品質に強みを持った歴史ある日本企業を、ファイナンスの力で活力あるものにし、国際的にも戦える強い組織として、日本経済の成長に少しでも貢献する。それが自分が最もやるべき責務だと考えている。

 

ファイナンス界隈、CFOという職責で見渡しても、最近は優秀な同世代の人間はスタートアップ志向が強いと感じる。中には、ストックで一攫千金という人もいるが、それよりも社会課題を解決したいという強い思いがあってチャンレジしている人が多い。本当に素晴らしいことだと思う。

 

自分自身も多くのスタートアップからお誘いを頂くことが多く、魅力も感じる。まるで明治維新で多くの志士が「日本の危機」を感じて立ち上がったように、志ある者達が事業を通じて社会課題を解決しようと勝負している。それが魅力的じゃないわけがない。

ただ、スタートアップはハードワークが求められるものの、いかに「資金調達を行い」「資金を枯渇させず」「内部管理体制を敷いて上場させるか」に焦点が当たることが多分にあり、ある意味CFOのやるべきことは極めてシンプル。力一杯、その道を走り抜ければいい。(XX億円資金調達しました!というPRだらけなのには胃もたれがするが・・・)

 

スタートアップと比較した場合、長期間事業を営んでいる伝統的な日本企業では停滞した事業、凝り固まった社内制度、流動性の低い人材、積み上がった内部留保など、複雑に課題が絡み合った状態である一方、人的にも資金的にも「成長に転じる可能性を秘めた」資産を保有する企業が多い。

それらの資産を、活力の生まれる投資に再投資し「VITAL」にするのだ。

https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20220516/02.pdf

 

これはスタートアップのように、まっずぐ走り切ればゴールにたどり着くものではない。(実際はスタートアップも紆余曲折あって、そんなに真っ直ぐでもないが・・・)

「理」だけでは通せない面倒ごとに立ち向かい、人の気持ちが熱くなる変化を起こし、組織を動かす力がなければ成し遂げられない仕事だ。そういった役割を日本企業のCFOとしてやっていこうという人間は周りにはあまりいない。

(因みに今年の初詣で引いたおみくじには「理では勝てない」と書いてあった・・・)


だからこそ、そこを担う人間がいても良いのではないか、それが自分の「Will」となっているのだ。ファイナンスの力で、元気な日本企業を創り、グローバルで戦っていく。それこそが自分の志であり、目指すべき道だと信じる。そのため、当然ながら高い志を持つ組織、高い志を持つ経営トップと共に勝負できる場を選ぶことになる。

 

日本企業における一般的なCFOの役割は現場感覚からも各種サーベイからも「経理財務」「税務」「予算」といった領域を担うことが多い。そのため前述のような自分の考えるCFO像は少し飛躍しているのでは?と疑問に思われることがあるかもしれない。

しかしながら、私から言わせればCFOはあくまで「ファイナンスの専門性を有している」ことのみが他のCXOと異なるだけで、組織横断的に全社の企業価値向上に責任を負う職務であると考えている。

従って、事業と組織を前に進めるマネジメント力を有することを目指すべきだろう。そこで大事になるのは財務戦略や予算等の計画策定にとどまらず、それを自ら組織に落とし込み、自らが実行とその結果に対して全責任を負う覚悟で臨むことだ。

 

最後に、実は「元気な日本企業を創り、グローバルで戦いたい」といった話をすると、同じ思いをもって戦っている人は沢山いる。ファイナンスに限らずどのような職責であっても。そういう方々と出会う度に「この山を登りきるぞ」という元気が出るのである。

日本は、まだまだまだまだ捨てたものじゃない。いち組織でできることは日本全体で見れば小さなピースかもしれないが、その積み重ねが「日本を元気に」に寄与すると信じる。

 

ファイナンスで日本企業に力を(前半)

これまで、監査法人から外資系のプロフェッショナルファームを皮切りに、様々な経験をしてきた。

いつからか、自分はファイナンスを武器とした経営者として仕事をしていくことを決めた。私が言うファイナンスとは「金融機関」や「投資会社」におけるファイナンスではなく、事業会社において企業経営を行うためのファイナンスである。即ち、シンプルに言うならば「経理財務」に囚われないCFOということになるが、そのきっかけは何であったか。

 

記憶を辿ると「巨象も踊る」に登場した、当時のIBMCFOであるJerry Yorkであったかもしれない。CEOであるLouis Gerstnerと企業を建て直す役割に、幼少時より歴史モノで「軍師」が好きであった自分は恐らく魅了されたのだ。

 

尊敬する大先輩から、若い内から「CFOという枠」を自らに課すことは無い、社長を目指したって良いじゃないか、と言われたことを思い出す。

それはそうなのだけど、登山と同じで、「登る山を決めたら登るのだ」という思いも当時は強かった。ただ、その言葉は心地よい程度に自らへのプレッシャーを和らげてくれ、とても助けられた。


プロフェッショナルファームのあとは、事業会社一本でやってきた。

 

それは、CFOを目指す上ではハンズオンでの経理財務経験が必須であると信じて疑わないからであるし、また一方で、コンサルと言う仕事が性分に合わないと感じたからでもある。

 

プレゼンやロジカルシンキング、クライアントとのコミュニケーションの取り方、考えることが好きであること等「Skill」の面で言えば、恐らく自分は事業会社よりもコンサルの方が向いているのだろうと今でも思っている。

 

ただ「Will」が違ったのだ。

 

「Will」と「Skill」とがマッチしてくれれば、どんなによかったことか。だが、違うものは仕方ない。「Will」の方が人生で大事だ。

 

自らが修羅場をくくり、苦労をして血肉となる事業運営の経験を得なければホンモノのCFOにはなれないし、なりたくもない。その「Will」が自分に事業会社に行けと命じたのだ。

その志向が強くなったのは、自分が20代のころに元デルタウィンCFOパートナーズの安藤さんから頂いた「プロフェッショナルCFO」というプレゼン資料の影響が大きい。

詳しく知りたい方は安藤さんの書籍(CFOを目指すキャリア戦略〈最新版〉)をご覧頂きたいが、その要諦は経営企画力や経理財務力は実務家として経験すること、そしてマネジメントとしての力は修羅場をくぐること、の2点であり、正にそこで示されていた道を道標にしながら歩んできた感がある。

「プロフェッショナルCFO」の資料より。
自分の場合は監査法人=>コンサル=>事業会社の順。

 

はじめての事業会社となった世界でも十指に入るグローバル外資系企業では、ファイナンスの力強さ、マネジメントやFP&Aのイロハを学び、優秀で並外れたリーダーシップを持つ上司と出会えることができた。

ロールモデルと思える方々と身近に働けたことは、かけがえのない財産になり、今でも自分の「ファイナンス」としての軸になっている。


はじめての日本企業となったIT系企業では、上場企業としての業務はもとより、業態ならではの事業スピードに加えて、「どうやったらできるか?」「本質は何か?」を「徹底的に考えぬく」というマインドセットを鍛え抜かれたように思う。付いて行くのに必死で、過ぎ去った時間の何倍もの経験をさせてもらった本当に貴重な2年間だった。


その後、非上場企業やスタートアップ企業でCSO(SalesではなくてStrategyの方)やCFOの機会を頂いた。スタートアップでの経験は、大企業とは全く異なる視点でのアプローチが必要であったが、外資系企業とIT系企業での経験値が掛け算で作用し、怖いものは何もなかった。

そして、CFOのような軍師的な役割を担う場合、人間的に尊敬できるトップとでないと、一緒に事を成すことは困難であることも実感することができた。困難と言うよりも、自分の生き方としてそれを望まないこともハッキリとした。


これらの経験を得ることができた「縁」にはひたすら感謝しかないのだが、プロフェッショナルファームからグローバル大企業、日本企業、スタートアップまで幅広く携われた中で、今、自分はトラディショナルな日本企業をファイナンスの力でVital(活力ある状態)にする役割を担いたいと考えている。

 

後半へ続く