ファイナンスで日本企業に力を

ファイナンスで日本企業に力を

CFOがリードすべき伝統的PL経営からCF経営への転換

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目次

 

2023年度の振り返りから

CAC Holdingsの2023年12月期 通期決算発表を行いました。
2023年は 財務戦略方針に沿った成長投資を実行し、様々な投資案件を検討した1年でした。
 
2022年から2025年までの3年間が現中期経営計画の対象期間になりますが、この期間中に「新規事業を創出する仕組みづくり」と、2026年以降に継続的な投資を実行するための「財務的な体力づくり」を達成することに重点を置いています。
 
「成長投資」の実行については、特に内部留保のある成熟企業において同様のテーマを取り扱われていることが非常に多い印象です。IRを見ると、殆ど同じようなことを言ってる上場企業が多数・・・あるので、そのような企業の取り組みと当社の実行している内容を比較してみると面白いかもしれません。では、CFOとしての取り組みについて以下、書いていきます。
 

新規事業創出の仕組みづくりは順調に進んだ!

前者の「新規事業創出の仕組みづくり」ついては、第4四半期に新たなプロダクトを立て続けにローンチするなど積極果敢なトライを続けています。 ファイナンス部門としては、失敗を恐れずにそのようなトライを継続できる状態の維持に努めました。
具体的には、新規事業開発部門の予算を完全に他部門と区分したこと。さらに、投資判断基準においては、その自由度を維持したことです。「仕組みづくり」=「事業開発できる人づくり」ですので、事業開発できる人材の自由度をいかに高められるかに腐心しています。
投資実行時の意思決定プロセスの迅速化や、新規事業にチャレンジした社員が成功した際の魅力的な報酬制度については引き続き、改善する余地があると考えています。
 

体力づくりはPLのプロフィットマネジメントを徹底!

「財務的な体力づくり」については、基盤となる SIer事業の収益率を高めるべく、リモートワーク推進&オフィス縮小による家賃縮減の実現に目途が立ちました。2024年からはコスト削減効果が億単位で出てくるので、しっかりその分を投資にまわしていけます。
家賃の他にも、各種経費の見直しを実行。特に第4四半期に入ってからは、年間予算の達成に向けて厳格なプロフィット・マネジメントのプロセスを導入しました。当社ではこれまで、良くも悪くも業績管理については、どんぶり勘定的なところがあり、「売上」と「営業利益」(それぞれ1本のラインで・・・)を中心に業績の見通し管理が行われていました。
しかしながら、それでは片手落ちというもので、ホールディングスと言えども、グループ各社の売上はある程度は分解しなくてはならないし、コストも原価と販管費を分けることで「何が各社の事業に起きているのか」を把握しなければ適切なアクションは取れません。「解くべき課題は何か?」が分からないからです。
業績の可視化を進めることで、市場・株主に対してコミットしたプロフィットをしっかりと達成できる見通してあるのかどうか、マネジメントできるプロセスを構築しました。これにより、経営陣が月次の会議を待たずにコミュニケーションできるように。
恐ろしいことに、こういったプロセス化を進めないと、その月の経営会議で「業績が未達成になるかもしれません」といった議論が行われても、コミットメントが弱い、というかリスク感度の低い組織では1か月後の経営会議に「対応を検討した結果」が出てくることがあります。「実行した結果」じゃなくて「検討した結果」です。「プロセス」化をすることでそういったスピードが欠如した経営アクションをある程度防げるわけです。
当社においては、このプロフィット・マネジメントのプロセスを導入したことで、利益が不足する場合には追加施策として何をやるべきなのか、また、業績予想に含まれていないリスクは他に何があるのか、について共通認識をもって課題に当たれるようになりました。2023年度の第4四半期に厳しい予算措置(すなわち今まではあまりやっていなかったコスト管理)についても、経営トップからのメッセージを発信してグループ各社にコミュニケーションを行いました。
コスト管理(というか削減)についてはもちろん一長一短あります。
事業拡大ではなくて縮小マインドが勝ってしまいチマチマ病に陥ったり、顧客のことよりも社内のことに目が行くようになったり、などデメリットが沢山あります。
ですが今回に関しては「何が何でも目標を達成するんだ!」というコミットメントへの粘り強さ、経営の本気度を示したくて、コストについても強いメッセージを社内で出すことにしたのです。目の前の目標達成にこだわれない組織が、果たして中長期的な目標を達成できるでしょうか? 私には達成できるとは思えません。
 
最終的に、コミットした業績見通しのトップライン(売上)も ボトムライン(営業利益、純利益)も達成することができました。 外資グローバル企業では当たり前のように実行していることですが、 業績にインパクトのある出来事をしっかりと数字で把握し、かつ、経営がしつこくアクションの実行までフォローし、繰り返しメッセージを発信しなければプロフィット・マネジメントはとてもじゃないができません。嫌がられても「しつこく」やることが ポイントです。

プロフィットマネジメントの表サンプル

 

PL経営からCF経営へ ~調整後EBITDAを重要指標に~

2023年度、ひとまずPLの利益を達成したことでヤレヤレ・・・ではあったのですが、将来に向けてはPLではなくてCF(キャッシュフロー)経営に舵を切りたくて、現在考えていることを書きます。
 
当社グループでは従前より「営業利益」を重要な経営指標として経営を行ってきました。営業利益は「本業からの儲け」を示す指標になりますので、その重要性を否定するものではありません。引き続き、組織内の各事業部門の業績管理において、営業利益は有効な指標の一つとして考えています。
んが、当社が現在の中期経営計画において目指すのは、投資を継続的に実行するために「事業から稼ぎ出すキャッシュ」を拡大していくことです。これを実現するために、高収益化に向けた複数の施策を実行していますし、体力をつけるという意味では M&A による非連続な事業拡大も重要な施策と位置づけています。 その他、RSやJ-ESOPなどの株式報酬制度を活用した「人」のエンゲージメントを高めることも推進中です。
これらの施策を実行する場合、PLの営業利益には キャッシュアウトを伴わない費用が多く計上されます。すなわち、M&A実行による「のれんの償却費用」や「株式報酬費用」などです。そのため「事業からキャッシュをいくら稼げているのか?」の実力値を測るには営業利益だけでは不十分なんです。
 
当社が今現在、重要視するべきことは繰り返しになりますが「事業から稼ぎ出すキャッシュ」を拡大することなので、営業利益 1本で業績を視るのではなく、キャッシュの創出力をマネジメントしていく必要があります。
それを実現すべく、「調整後EBITDA」を最も重要な経営指標として用いることにしました 。「調整後」ですので 営業利益に減価償却費、M&Aで発生するのれん償却費、株式報酬費用を足し戻した数字となります。要は、本業からいくら「キャッシュ」が生み出せたのか?を指し示すのが、当社においては「調整後EBITDA」が最適であるという判断です。

調整後EBITDAの定義
 
経営指標についての要諦は結局のところ「どのように経営したいか」なので、IR的には他社との比較容易性の要素を考慮しつつも、自社として重要と考える指標は独立独歩で考えるべきなのかなと思います。
しかしながら、長年のあいだ営業利益を最重要、かつ、ほぼ唯一の指標として利用してきたことから、経営指標を変えることについては、まぁまぁ社内で議論がありました。要は、株主や投資家は営業利益がないと当社の株価の評価ができないのではないか?という論点です。
これまでは、基本的に東証が用意した業績予想フォーマットの項目、すなわち売上高、営業利益、経常利益、当期純利益、配当等々を業績予想として公表してきたので、継続性の観点では、同じような項目を引き続き開示していくことが望ましいのかもしれませんが、先に述べた通り、営業利益や当期純利益では、当社の実行しようとしている経営とはマッチしません。もっと言えば、投資家が当社の利益の状況についてミスリードされる恐れすらあると考えています。
それを避けるためにも、当社が今のフェースでやるべきことを正しく表明すること。これを後押しするのはどの経営指標であるのか?、を考え抜いた結果なわけです。ちなみに、業績予想として使用する指標については、強制力をもつ法律・規制はありませんので、自社で正しい指標を決めるしかありません。
 
繰り返しになりますが、その考え抜いた結果が、今回は「調整後EBITDA」であったということです。経営が次のステージに移るべき時がきたら、追うべき指標は変わっていく可能性があります。思考停止にならず、「一般的にそうだから」という理由ではなく、「当社はこう経営するんだ!」ということを常に考え抜いて、正しく表現する。これを実行実現していきたいと考えています。
 
検討にあたっては投資家目線での確認も行いました。
正直なところ社内の議論をまとめるための材料としても、「営業利益」による競合他社との比較可能性が、本当に重要と言えるのか?を検討していく必要があったのです。本来ならすっ飛ばしたいプロセスでは合ったのですが、そこの理解無しに物事が進まないのは適切なガバナンスが機能してるとも言えます。
 
この確認作業については、マクロとミクロ視点のセットで行っています。
 
マクロの視点については 投資家の判断材料についてさまざまな レポートやサーベイが ネット上でも見つけることができます。営業利益は確かに判断材料の一つではあるものの、どの調査結果を見ても、最も重要視されるのは資本効率性、すなわちROEやROIC。 過去当社では、株主は「営業利益を重要視している」というポジションをとってきましたが、それは一部の投資家との個別のやり取りにおいて、そのように判断していたところが多分にあったと感じています。その少ないサンプル数でしかない投資家の意見が、多数の意見を代表しているのではないかという想定に基づく結論でしたので、マクロ的な視点に立てば「営業利益」に固執する必要はないと判断するに至りました。
 
ミクロ視点では、当社の株主が実際にどのように考えているのか、IRミーティングの一環で検証を行いました。一言で言うならば、現在のSIer(ITビジネス)の市場環境から言えば「売上の成長」や「PLよりもBS寄りの指標」を重要視していることの確認が取れました。BS寄りの指標は具体的には、資本効率性や財務健全性などですが、さら最も重要なこととして総論として「経営者が何を重視して経営を行うのか。経営の目指す姿はなんであるか?その姿を現す上で最も適している指標を示して欲しい。」と。それを明確にされたいというのが、ミクロ視点で当社が理解できた投資家の視点でした。
 
このようにマクロ視点とミクロ視点の検証結果を踏まえて、目標指標を最適なものである「調整EBITDA」に変更することができました。ファクトのエビデンスを積み上げていく。面倒ではありますが「何かを変える」時には外せない要素なのかなと思います。
これは「重要施策を実行するためのステップ」として以前書いたことにも共通しますので、「変化」を起こしたい方は是非こちらも参照ください。
 
そのような経緯で、現在の当社にとって最重要である経営指標は「調整後EBITDA」である、と定めたわけですが、実は我々のやりたいことを表現する上で、100%正しい指標であるとも言い切れません。そのため、経営指標の変更を検討するにあたっては、EBITDAだけではなくて、純利益や営業キャッシュフローなど、複数の指標を比較検討しました。
 
当社では、現中期経営計画の期間中は成長のための先行投資により、PL の利益が実力値より悪化することを見込んでいます。そして、保有している有価証券等の資産の売却益により、最終利益を守る方針を立てています。(実際は先行投資の原資をつくるために事業に資さない資産を売却するのですが、結果的にPLの利益にもヒットするから)
 
そのため、有価証券の売却益が影響しないEBITDAではなくて、当期純利益を最重要指標とする考え方もあります。そもそも財務戦略では ROE 10%を目指していますので、その観点でもROEの分子である当期純利益を指標として用いることには一定の合理性があります。
 
しかしながら、当期純利益を指標とする場合、営業外損益には通常の事業活動では発生しない様々な項目が含まれていますので、それらも含めた当期純利益で「事業の実力」を図ろうとしても困難が伴います。また、事業部門の視点に立つと、営業外項目はアンコントローラブルなものが多いので、そういった意味では業績管理はEBITDAが最も適切であると考えています
 
経営として達成したい視点により〇×は変わりますが、当社の意思をベースに考えたときの各指標とのマッチ度は以下のような状況となり、比較検討して調整後EBITDAに行きつきました。

経営指標の比較結果
 
経営指標の変更については、今後は社内への浸透もしていかなくてはなりませんが、そうは言っても営業利益で業績管理をしてきた長い長い歴史がありますので、コミュニケーションには、必要な順番があると考えています。
まずはグループ全社での重要な指標として採用し、「調整後EBITDA」を経営層の共通言語にしていきたいと考えています。その上で、必要になったタイミングでグループ各社の評価指標として順次適用していく・・・かもしれません。
「かもしれません」というのは、グループ各社については現状、調整後EBITDAの調整項目で重要性のある取引がかなり限定的であるためです。営業利益の管理で足りる場合には、そのままシンプルに営業利益を業績指標として活用しても良いかな、と考えています。
 

IFRS検討について(今さら・・・)

なお、日本の会計基準よりも、コンセプトがキャッシュ ベースに近い IFRSベースのPL での業績管理も検討はしたのですが、 PLの見てくれだけの問題でIFRS を導入するのは時期尚早と判断しています。そのため、本記事は基本的に日本基準ベースで述べていますのでIFRS適用されている方はご注意下さい
 
IFRSが時期尚早と考えている理由ですが、 当社は残念ながら大企業のように(海外の投資家も含めて)市場からの注目度が高いわけではない、ことが一因としてあります。株式市場からの直接金融による資金調達についても、現中期経営計画中は予定しているものがありません。
 
今後、海外投資家を含めた市場からの資金調達を具体的に考えて行く中で、IFRS適用について考えれば十分。"今"はそこに頭を使わない、と判断して優先順位を落としました。
 

今後に向けて

今回、「調整後EBITDA」を重要指標として定めることは、PL経営からキャッシュフロー経営 、ひいてはBS経営に舵を切っていくための布石であると考えています。
 
キャッシュフロー 及び BS を重視した経営をしていく場合、ホールディングスカンパニーとしては以下のようなタスクがより重要となってきます。
・投資ポートフォリオ戦略の決定(事業領域、地政など)
ポートフォリオごとの投資配分の最適化
・不要な事業や資産ポートフォリオの売却や精算
・借入をレバレッジした企業価値の拡大
 
間もなく創業60周年を迎えようとする当社においては、過去の先人たちの努力の積み重ねにより、ありがたいことに潤沢な資産がありますので、これをしっかりと「事業に活かす」ことで、社会にポジティブなインパクトを生み、かつ、従業員が高いエンゲージメントを持って働ける環境作りを行い、ビジョンの実現に向けて進んでいきたいと思います!