目次
- 2023年度の振り返りから
- 新規事業創出の仕組みづくりは順調に進んだ!
- 体力づくりはPLのプロフィットマネジメントを徹底!
- PL経営からCF経営へ ~調整後EBITDAを重要指標に~
- IFRS検討について(今さら・・・)
- 今後に向けて
2023年度の振り返りから
新規事業創出の仕組みづくりは順調に進んだ!
体力づくりはPLのプロフィットマネジメントを徹底!
目次
2023年2月14日の決算発表で、CAC Holdingsの財務戦略を開示しました。
現在、当社は財務戦略の第1フェーズに取り組んでおり、その焦点は現存の資産を活性化することで、この取り組みのテーマは「Be VITAL」としています。
具体的には、保有している現金や金融資産を、人的資本のエンゲージメント向上や採用強化などの企業活動に投資するために活用します。これにより、眠っていた資産を活性化し、企業活動に新たな活力(VITALITY)をもたらす方針を明確にしました。同時に、株主への還元策も明示しているのですが、財務戦略方針を策定時のことはこちらを参照。
ある意味、ファイナンスの世界では超スタンダードな原理原則を導入したわけですが、これを当たり前と言うなかれ。そこには、単なるアイデアや理論だけでなく、データに基づいた検証とロジックが組み込まれています。
それに加えて、実行実現には熱意と覚悟が必要。事業会社のCFOの方には『そりゃそんなに簡単じゃないよね』がおわかり頂けると思いますが、財務戦略方針を検討開始してから約1年間で、様々な施策の実行までこぎつけることができました。
我々の組織はまだまだ成長の途中ですが、経営戦略の実行をサポートする財務施策を短期間で整備し、推進してきた経緯についてこの記事では書いておきたいと思います。
目次
絶対に実行実現したい重要施策に関しては、全て以下のステップを踏んで進めました。
1. 自らがやる切る覚悟を持つ。
2. 事実をデータで明らかにする。
3. 戦略を熱くシンプルに語る。
4. 共鳴し闘える者をリーダーに据える。
5. 自らが実行に徹底的にかかわる。
従って、最後まで自分がやりきる覚悟を持ったその日から取り組んでいくわけですが、
この中では4.の「共鳴し闘えるリーダー」を見つけて必要な職務に据えるのが最も難しいです。他は、自分が歯を食いしばってブラックに働けばなんとかなる(笑)のですが、正しい体制をつくれなければ、戦略や施策が骨抜きとなり実行されないため、最も重要な点だと思います。
もともと、自分自身は「組織は戦略に従う」を近年まで信じて疑わなかった人間です。すなわち「戦略」が先に来て、その戦略を実行するために最適な「組織」をつくることがあるべき姿であり、最も効果的であるという考え方です。
そのように信じて長いこと仕事をしてきたのですが、
「戦略」の前に「組織」を整えなければならない。
「正しい組織と人」が整わなければ戦略など実行されない。
というように考え方を改めました。
過去、「戦略実行が骨抜き」になる場面を何度も何度も目にしてきたのに、戦略が実行されるされないに重要であるのは「人>戦略」である。この事実を、頭の中で整理できていませんでした。この考え方について興味のある方は、三枝さんの著書を是非参考にして下さい。間違いなく、助けになります。
次に、各ステップを踏んでどのように各施策を進めたのかですが、財務戦略立案時と配当方針決定時のことについては、冒頭のリンク先に詳しいので、ここでは方針に基づいた各施策の実行について記載していきます。
組織としての成長基盤をつくるために、150億円を将来に向けた投資に使うことを財務戦略方針で定めたので、方針に即した実行状況を管理監督する必要が自ずと生じます。
そこで、月次で投資の進捗状況のトラッキングを開始しました。
アウトプットは投資枠に対して実績と将来の見込みを比較する、という極めてシンプルな話ではあるのですが、きれいなワンストップのデータベースがあるわけではないので、「実績」データを採るプロセスから構築しました。
成長投資の対象は単に経理決算数値から採れるものではなく、人的資本投資や新規事業関連投資、M&A関連投資など多様であるため、個別に数字を取得できる態勢をつくる必要がありました。
新しい期がスタートするタイミングで即座にトラッキングを開始したかったので、投資進捗をレビューするためのテンプレートと取得するべきデータを自ら整理して、プロセスを構築しました。正に「自らが実行に徹底的にかかわる」です。
細部の具体的なところや、レビュー開始後の継続的改善については、幸いにも「共鳴し闘える人材」がチームに居てくれたのでスピーディーに投資状況が可視化されるようになりました。あとは、しっかりと投資を進捗させることが経営としての課題です。
当社で導入した財務戦略では、投資の使途ごとに投資原資の調達方針を定めています。
即ち、リターンが読めないリスク投資には、現預金や資産売却により調達する資金を使い、リターンが見込める事業投資にはデットを活用して資金調達を行い、借入利息以上のリターンを得ることを目標とするものです。
成長投資の使い道を定めたことで、グループとして現預金を何に投資するのか?の優先順位が明確になり、これを機にCMSの初歩の初歩として、ホールディングスに余剰資金を集約する方針とプロセスを構築しました。(下記図で言うStep2までが完了)
CMSの本来のコンセプトからすると、本当に第一歩の感が強く。順次レベルアップしていきたいと考えています。
なお、財務戦略方針を固める前の当社の組織では、過去に現預金を一か所に集約することを行った経験がありませんでした。これは「各社の経営は各社の自主性に任せる」という日本企業的なガバナンスを行っていたためです。そのため、CMSは新しい取り組みとなるため、関係者には丁寧なコミュニケーションを心がけました。
具体的には、マネジメント層に向けたグループ全体への情報発信のあと、個社ごとに自ら説明を行い、その必要性をお話してまわることにしました。皆がみな同意では無いにしても、良いことも悪いことも率直に話すべきと考えたからで、情報をできるだけオープンにして全体の預金残高や使い道をなどもつまびらかにしました。「なぜ資金集約など実行する必要があるのか?」について「データで明らかに」し「熱くシンプルに語る」ことに徹したのです。
最終的に安全性も考慮して原則月商2ヶ月分の資金を各社に残すことにしたのですが、それを決めるにあたっても、各社の過去2年間の預金残高推移など実データを細かく確認して、ロジックを固めたことは言うまでもありません。
なお、日本企業的なガバナンス自体は、一国一城の主としてグループ各社の経営者の力量を上げるメリットは多分にあるので、一概に否定されるものではないと考えてます。
株主構成については、当然ながら自社でできることと、できないことがあるのですが、戦略的な意味合いが無い政策保有株式については、積極的に手放すことを進めました。
持っているだけの資産なら、事業をVitalに、組織を元気よくすることに使おうと考えたからです。他方で、事業において強固な関係を築いていくための保有も行っているので、綺麗に圧縮と言うわけではありません。
それにしても上場企業における株主構成の検討や対応は本当に骨が折れます。
安定経営を目指すのであれば「物言わぬ」株主が良いときもあるでしょうし、株価上昇を目指すのであれば、流動性を優先して「物言う」株主が増えるべきでしょうし、その視点が180度変わります。
当社の今の状態は成長基盤をつくるための先行投資を行っている段階ですので、前者の安定経営を向こう3年は継続する方が、ステークホルダー全体にとって良い面が多いように思います。但し当然ながら上場企業である以上、いつまでも安定株主に・・・というのは筋が違うので、最終的にあるべき姿ではないと捉えています。
150億円成長投資の一環として、既存の社員を対象にした株式信託報酬制度(J-ESOP)の導入を決定しました。いまだ、導入準備中で完遂していませんが、導入のためのプロジェクトを推進しています。
2022年の年末に同制度の導入準備を本格的に開始しましたが、9カ月たった現在も引き続き準備中です。本取り組みについては、導入プロジェクトのリードをお願いできる人材(すなわち「共鳴して闘えるリーダー」)をアサインすることができず、CFOの自分がプロジェクトリーダーを務めて推進するに至っています。
本制度を決定する際に、泥水を飲んでも「自らがやる切る覚悟を持って」スタートしているので「自分でやる」という意思決定を迅速に行いました。
しかしながらストックオプションなどはまだしも、人事労務の専門家ではないため、細かくWBSを作成して信託銀行さんやグループ会社人事の方の協力を得ながら推進しています。経験値の無いことも、タスク管理と丁寧な確認作業を面倒がらずに行えば、出来ない業務などない!と自分にいい聞かせながら進めています。
今のところ幸いなことに、大きなトラブルなく進んではいるのですが、経営全体で見れば重要な施策は他にもいくつもあるわけで、専門外領域のプロジェクトを自らがやるとなると非効率ですし、あまり賢いやり方ではないと思います。今回は、已むに已まれず自らが現場の最前線でやっていますが、それだけ「社員のエンゲージメントを高めるための施策として重要視している取り組みである」という意思表示でもあるのです。
参考までに進め方の大枠です。当社の場合は諸事情で時間がかかってますが、スムーズにいけば半年程度での導入も可能かと思います。
歴史ある日本企業(JTCというらしいですね最近は)で実によく見られる問題が生じており、解決するための活動を開始しました。問題とは「売上」と「営業利益」のどんぶり勘定で目標設定や実績が語られていること。
さらに、売上は売上一本、営業利益は営業利益一本の1ラインでしか数字を見ておらず、中身が分からない。これでは目標設定が妥当であったのか判断ができないし、実績を見ても果たして何が起きているのか、数字で捉えることができません。
業績についての議論は口頭での空中戦が飛ぶばかりとなることが多く、「数字」が使われる場合も、ただ数字が羅列されているだけで、比較が無いので分析ができていない。
まさに「ジャイアント馬場はデカい」で止まってしまっており、「ジャイアント馬場は日本人平均身長の160cmより50㎝も高い!」というような分析に至らないケースが散見されていたわけです。(分析とは何か?は詳しくは安宅さん著書で:イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」)
とにもかくにも一言で言えば、CFOとして数字では戦えない状況にありました。
但し、そこは歴史あるJTCですので、データは色々持っています。それに、仕訳伝票では読み取れない実態や、過去の歴史など知見を持っている方も多く、分析しようと思えばしっかりと分析できる土壌があるので、これを活かさない手は絶対にない!と考えたわけです。
そこで、社内で「データドリブン経営」を目指すとぶち上げました。
巷で言うデータドリブン経営とは、リアルタイムで経営判断を行うようなレベルの経営スタイルだと理解しています。従って、そのレベルには程遠いですが、まずは連結財務諸表で何が起きているのか?をしっかりと数字で内訳を可視化して説明するところから改善を始めることにしました。進め方はいたってシンプルなコンセプトで、以下のような流れで進めています。
可視化については、テンプレートと取得するべきデータを自ら整理して、プロセスを構築しました。ここでも、「自らが実行に徹底的にかかわる」です。プロセス化できたものは、次の四半期からは担当のチームに引き渡すことで定型化を進めています。
自分よりも各領域の専門知識や「社内歴史」情報を持っている方も多いので、引き渡した後にさらなる発見があったり、情報が精緻化されたり、外部の血と内部の肉が混ざりあってより良いものになっていく工程は何とも言えない醍醐味を感じます。
更に高度化していくことができれば、PLやBS、CFなどの財務数値を中心とした経営ではなく、Value Dynamicsの考え方を取り入れ、企業価値に最も影響する重要な指標を中心にモニタリングしていく仕組みを目指したいと考えています。
データドリブンの項で触れた通り、まずは「今を知る」ことが重要な状況にあり、それが故に予算策定についても類似の課題がありました。どうしても「売上」と「営業利益」が中心となったコミュニケーションに偏っており、「数字」や「データ」に関してはその他の議論やレビューが薄いまま、「予算や目標」が語られている状況でした。
ホールディングスが、どこまでグループ各社の経営(予算の内容)に立ち入るのかという問題は残りますが、投資の優先順位を判断するためにも、グループ各社及びその商品とサービスが、ライフサイクルのどの位置にあるのか、を理解しないことには始まりません。また、コストの部分にも光をあてて、不要不急なコストが生じていないのか、分解していかなくてはと考えてます。
まずは、ごく一般的な内容ではありますが、以下のようなコンテンツを予算の取り組みに採用するようにしました。どこまでこういった取り組みがワークしたのか、は後日改めて振り返りたいと思います。
・市場成長性とシェア(サービス、プロダクト毎)
・競合、強み、成功へのアクション
・PLの推移と計画(売上から最終利益まで)
・売上と粗利の推移と計画(サービス、プロダクト毎)
・人員数の推移と計画(エンジニアとそれ以外を分ける)
・販管費の内訳推移と計画
・PL外のBS投資の推移と計画
様々な財務施策の実行に加え、データドリブン体制を構築するために、即戦力人材を中途採用で獲得することを目指しました。企業としてのブランド力が弱いので、採用に至るまで約1年、長期に渡る採用活動を行うことになりました。
ブランド力が無いと言っておきながら、強いチームを組成したかったので妥協はせず、その間、必要な業務はどっぷり自らがプレイングしながら、平行して採用活動を行うことに・・・。
過去の職場で共闘した優秀人材は、各々の場で活躍しているので招聘することもできず、時間をかけました。
それにしても、年々と採用のハードルが上がっていることを実感します。この先どう考えても、働き方の多様化と少子化により、もはや正社員やフルタイム契約社員のみで業務を遂行していくのは困難と見据えており、フルリモートのアウトソース先にも協力頂ける仕組み構築にパワーを割きました。
今後、自部門に限らず、外部リソース活用の仕組みを横展開していけば、コスト効率の高いオペレーションをサステイナブルに構築できると考えています。より生産性の高い共同作業ができるよう、人任せにせずに取り組んでいくつもりです。
マネジメントの役割には、チームを構築する責任がありますが、既に今現在、社員、契約社員、フリーランサー、業務委託、アウトソーシングを統合したリソース・マネジメントが必要になっていると考えています。
以上、ここ1年で推進した財務関連施策について書きましたが、各施策が寄与すべきゴールは「企業体としてビジョン・ミッションの達成に近づくこと」に尽きます。
各施策を実行しても、そのゴールに繋がらないものであれば意味がないですし、またCFOというロールにおいては結果を出さねば意味が無い。プロセスではなくて結果にコミットするべきで、結果でCFOは評価されるべきだと思います。
では結果とは何を指すのか?ですが、ビジョンやミッションへの達成度合いを直接測ることは難しいことが多いですが(例えば当社では「社会にポジティブなインパクトを」となるのですが、じゃぁどれだけポジティブなの?を測るのが難しい)、企業としてのありたい姿を達成した状態においては、社会ニーズに貢献する機会が増え、その結果として売上や利益、資産、時価総額が拡大してくのだと思います。
従って帰結するところは、どこまでも数字であるので、全社レベルの財務指標がCFOの評価指標としては不可欠なのだろうなと思います。
それがゆえに、自身の場合は評価指標として、連結グループ全体の売上、純利益、ROEなどを置いてもらっています。当然その目標達成に向かって頑張ることは頑張るのですが、それ以上に私の場合は「自身の会社を元気にして、日本経済に少しでも貢献する」が勤勉に働く理由ですので、それに向かって邁進するのみです。
「元気」も図りずらいですが(笑)
スピードやガソリン残量のメーターが付いていない車を運転しろ、
と言われたら嫌ですか?
ガソリンのメーターが付いていなければ、
「あとどれくらいの距離走れるんだろう?」
モヤモヤしながら運転することになります。
そして、いちいち停車して、給油キャップをとって、
「どれくらいガソリン残ってるかな~」と中を覗かなくてはならない。
これでは安全運転もままならないし、
目的地に到着するのも遅くなってしまいますよね。
数字やデータが存在していても、
重要な情報が常に見れるようになっていない状態って
そんな車の運転に似てます。
そんな車を運転したいですか?
(もちろん「したくない」と言って欲しい・・・笑)
以下のような発言を、数字やデータを発信する部門で耳にすることがありますが、
これでは怖くて運転(経営)できない。
しっかり経営してくために常に見るべきメーターは何か?を
考えぬいて情報を出していきたいもんです。
「データはあるのだから、必要な時に見れば良いじゃん」
(いちいち停車してガソリンタンクを直接覗けば良いじゃん)
「間違ったデータを出すこともたまにはある。仕方ないじゃん」
(スピードメーター狂ってるけどスピード違反しないでね)
「報告していないと言われるのは嫌だから、全部報告しておこう」
(飛行機みたいにメーター沢山ついてますけどフィーリングで操縦してみてください)
「うまく行ってるんだから、報告なんていらないでしょ」
(違反で捕まるまで、スピードメーターを見る必要ないでしょ)
「忙しいから報告は遅くなっても良いよね」
(各メーターは5分遅れで数値が表示されますがどうぞ気にしないで)
2022年12月期の決算発表から約2ヵ月。
CAC Holdingsの株価は決算発表前日から+15%上昇した状態を維持しており、時価総額は+30億円超、PBRは1倍の近似値にまで上昇しました。(決算発表についてはこちらの記事参照)
決算発表のタイミングで今後の配当方針についても開示したのですが、このように株価に大きな影響を及ぼす「配当方針」はしっかりと考え抜いて立案、実行すべきCFOの重要アジェンダであることは言うまでもありません。
ですが、配当方針は企業によって本当にマチマチで。ロジックだけではない「経営者の想い」も多分に反映されるセンシティブな内容であるためか、実際にどのように配当方針を決定しているのか、実務的にどのように考えて方針決定に至っているのか、あまり情報は外に出て来ません。
当プログのテーマは「ファイナンスで日本企業に力を」ですので、成功・失敗含めてファイナンスパーソンの有益な情報となるようチャレンジする意味も込めて、どのような考えで配当方針を決めたのか書いておきたいと思います。
上記グラフで見て頂くと、決算発表後に株価が上昇していることが分かります。これは本決算発表で「配当方針」を明確にしたことで、結果的に「増配」予想となったことが強く影響していると考えますが、それ以外にも事業開発の先行投資が進んでいることや、スタートアップとの協創などSIerとしてはチャレンジしていることも、株式市場から評価されているのではと思います。
CFOのミッションは「企業価値の向上」であることは疑いの余地は無いのですが、上場企業における「企業価値」とは一体何を指すのでしょうか。狭義で言えば「株価=時価総額」が企業の価値であるとも言えますし、広義で言えば事業価値、非財務価値、株主価値で構成されるとも言えます。
個人的には広義の後者こそが「企業そのもの」の「価値」であると思います。
そのため、短期的視点で「株価上昇」を目指す活動にフォーカスした行為は、経営の目を曇らせる恐れがあるので重要視していません。当然「株価=時価総額」が上がれば社会・市場から評価されていると感じられるので素直に嬉しいですし、株主への還元という意味でも素晴らしいことだと思うのですが、それはあくまで正しい経営を行い、投資家から評価された「結果」でしかないと考えるようにしています。
今回、増配予想を開示したことも「株価を上げる」ことが目的ではありませんでした。あくまで投資余力と今後のキャッシュフローの見込み、から正しく株主還元である配当を行うべきである。それを軸に検討した結果、増配になっただけ、であり株価を上げることを第一の目標に行っているわけではありません。
株価は本源的には、以下のサイクルを好循環させることで上がっていくことを見込むべきなのだろうなと思います。
事業をしっかりと成長させる。
↓
社会にとって意義のある事業を行う。
↓
儲かった分は事業に再投資する。
↓
頑張った社員に報酬で渡す。
↓
オーナーである株主にしっかり還元する。
配当方針は、どのような配当政策で経営を行い、株主還元を行っていくのかに応じて決定する必要があります。事業の成長ステージに応じて捉え方も変わってくるとは思いますが、それぞれの特性は一般的には下表のように分類できます。
なお、生命保険協会の調査によれば「配当性向」を配当方針として公表している企業が最も多く、次いで「総還元性向」「DOE」という順序になっており、市場全体では業績に連動した配当」に関してコミットメントする傾向が高いと言えます。
なお、各指標のベンチマークをしたい場合には、JPXの調査レポートのサイトに全産業のエクセルデータがありますので、活用してください。
以上、市場全体の状況を確認しましたが、その上でCAC Holdingsがどのようなコンセプトで配当方針を新たに定めることになったのかを見ていきます。
配当方針を定めるにあたり、まずはじめに大事にしなければと考えたのは、中期経営計画と整合した内容であること。また、これまで株主に対して宣言してきた「安定配当」のコミットメントと一貫性があること。この2点でした。
前者の中期経営計画との整合性で言うと、本計画では当社の主要事業であるSIerのビジネスを持続的に成長させること、また主要事業とは異なる新たな事業を生み出すこと、すなわち「両利き経営」の達成を目指していますので、この方針に即した配当方針とする必要がありました。
後者の株主に対するコミットメントでは、歴史的に増配を継続してきたことに加え、中計経営計画の中でも、成長と安定配当の実現を宣言しており、この一貫性を維持することも重要な点として考慮しました。
成長の視点から言うと「事業がしっかり成長して高いROEを達成」できる場合には成長加速のための事業再投資にまわし配当性向を下げる。逆に「事業が成長せずにROEも改善しない」場合には、内部留保ではなく配当性向を上げる。この両軸を満たしつつ安定配当のコミットも継続できる。この3つ巴の条件を実現できるのDOEが最もマッチした配当方針であると考えました。
このコンセプトの一貫性から議論を開始し、次に述べる財務情報の検証を行って最終決定に至っています。
配当に限りませんが、当然ながら配当も大きな支出になりますので、全体の資金余力を確認することが重要です。そのため配当に限らず全社的な財務戦略を立案する中で、配当も包含して検討を進めました。財務戦略についてはこちら参照:
財務戦略の追加の論点として「配当としての株主還元」と、「事業への再投資」、「社員への還元」、この3つをどのようにバランスさせるべきか、を方針決定に向けて検討しました。厳密に1対1対1のバランスとまではいかないまでも、中期経営計画フェーズ1である2025年12月末までに予定する成長投資150億円とのバランスを勘案した場合、「事業への再投資」が最も多くなるのですが、現在は事業成長の基盤を創るステージと位置付けているので、再投資に偏った資金配分となっているのが正しい状態であると判断しています。
資金のバランスを確認すると同時に、配当方針の変更による影響度の分析を行いました。しつこいですが「株価の上昇」は目的ではないものの、当然ながら「増配」にフォーカスされて株価が上昇することが強く見込まれていましたので、どのような結果になるのか仮定を置いて、状況把握に努めました。
定量的な影響としては、株価の上昇率を前回増配時の実績を元に試算し、時価総額並びにPBR変化の仮定を置きました。と、言いたいところですが前回増配予想を開示したのが2020年2月。正にコロナで世界的に株価が大幅に下落した時期でした。CAC Holdingsの株価も同じように大幅下落しており、とても試算のベースとして活用はできず。
そのため、更に遡り2019年度に増配予想を開示した際の株価変動を元に株価上昇の想定を置きました。その結果、今回の増配予想開示後の株価上昇はノーサプライズでした。
株価上昇に伴う、PBRやプライム上場維持基準である1日当たり平均売買代金への影響についても事前に試算をしていました。
東証全体でPBR1倍割れの企業が多いのは周知の事実ですが、CAC Holdingsも長らく1倍を大きく割り込んでいましたので、株価上昇でPBRが1倍近似値になるのは前向きにとらえるべき状況と判断しています。流石に時価が簿価を割っている状態は、ファイナンスを勉強してきた人間からすると気持ちよくはない。
東証、低迷日本株に警鐘 PBR1倍割れで改善策要請 - 日本経済新聞
ただ、適正な株価水準なるものを、企業内で目標として設定するべきか、については議論のあるところかと思います。株価は結局のところ、企業側からコントロールはできない代物なので適正株価は何か?について積極的に時間を使って考えることはしていませんが、攻めの姿勢で行くなら同業種のPERやPSR、EBITDA倍率を上回る株価水準、保守的に行くなら流通時価総額100億円以上やPBR1.0倍などの上場維持基準等ルールベースの水準を守りに行くのが目標になるのかなぁと思います。
このあたりはまだまだ考え方の深化が必要だと感じています。
定量的なシナリオに加えて、定性的なインパクトについて、何を期待するのか明確にしました。最も重要視したのは、当社が行動規範で掲げている「仕掛ける/チャレンジ」を実行に移す企業である、というメッセージを明確にしたい、と言う点です。
あらたな配当方針であるDOE5%は、中期経営計画の最終年度である2025年12月期までに達成することも考えていましたが、先に述べた資金余力等を検証した結果、他の目標に先立って実現させることができるとの結論に至りました。より、保守的に安全に2025年まで判断を繰り延べる手段も取れましたが、「前倒しできる目標は先に達成する」チャレンジする企業であるとのメッセージを社内外に打ち出すためにも、今回の開示は意義があると考えています。
社内においては、行動規範として「チャレンジ」を求めていますので、経営陣が果敢にチャレンジする姿を見せなければ、とても社員からの共感は得られないでしょうし、人材の獲得競争に置かれている現代において、将来仲間になってくれるであろう優秀人材からも「仕掛ける」会社とは見てくれないのではないでしょうか。こういった1つ1つの取り組みが、採用機会の拡大にもつながればという思いも込めてやっています。
社外に対しては、我々が推進する「新規事業投資」に関する実行内容も、配当方針とあわせて開示を推進するようにしたので、当社が積極的な新規事業への投資を行っているメッセージとも相まって、将来の投資機会の拡大につながる環境づくりの一助になっています。
株主目線で考えれば、成長の下地を作りながらも、高い配当水準を目指す企業として、当社を応援して頂ける株主の皆さんを惹きつける機会にあればと考えています。その結果、株価の上昇により、株主還元の向上にもつながれば言うことなしですが、それを達成するには、今後も事業をしっかりと成長させることしかありません。
最後に「仕掛ける」企業として配当方針の十分性を検討しました。
同業他社や市場平均とベンチマークを行い、高い株主還元を示しているかを検証。新たな配当方針を適用すれば必要十分と考えました。DOE5%も先ほどの上場企業平均より高い水準にあります。資金余力を注意深くモニタリングしながらも、財政悪化を招かない範囲で平均よりは高くしたい思いがありましたので、最終的には「DOE5%水準を目指し各期の業績や経済情勢を鑑みて配当を決定する」旨の開示となりました。
しつこいですが、事業成長が本質的な企業価値ではあるものの、折角チャレンジしているので高配当株としての側面もクローズアップ頂けるのは良い点だと捉えています。
配当方針を決定するにあたり、CFOやIRのKPIに「株価水準」を設定するのは個人的には反対の立場を取ります。世の中には異なる意見もあるでしょうが、短期的な目線で「株価上昇」を目指す行為は、経営の目を曇らせて、さらには本質的ではない行動に重きを置くような力学が働きかねません。あくまで正しい経営を行い、投資家から評価された結果、株価が適正な水準になる、ことを考えるようにしています。株価水準は結局投資家が決定することであって、企業側でコントロールできるものではありませんから、そこに経営リソースを割くのは議論があって良いと思います。株価を何とかするための活動ではなくて、企業価値向上のために自身の力で実現できることに時間を使う方がよほど有意義であると信じます。
以上、「配当方針」はしっかりと考え抜いて立案・実行すべきCFOの重要アジェンダであることは言うまでもありませんが、株価に惑わされて正しいジャッジが出来なくならないよう、注意すべきであることを明確にして終わりたいと思います。
配当方針で悩むファイナンスの同志の皆さんの一助になれば幸いです。
健闘を祈ります!
有報とか短信の業績説明って読みやすいですか?
私は読みにくいです。開示文書のレビューはいつも苦痛な時間。
それは、定性的な情報については良しとしても、定量部分を文章で説明されると中々頭に入ってこないからです。「数字」については算数的に示してくれた方が、素早く情報をインプットできます。
社内で「数字」を語るときにも注意したいのですが、ダラダラと長い文章で「国語的」に数字を説明しても相手は一瞬で理解できない。長い文章は、聞き手に頭の中で情報を整理することを強いますので、共通理解を得るのに時間を要します。
一方で、「算数的」な示し方で説明をすれば、相手も素早く理解できて、議論がスムーズに進みます。
以下は同じ「数字と状況」について、それぞれ「国語的」「算数的」に説明しています。どちらの方が情報を読み取る時間が短いでしょうか?
「国語的」説明
当社の売上は前年度から100百万円成長し、2,000百万円となった。
その内訳だが、A事業の売上が前年度は新商品の影響で一時的に高かったため、昨年対比で500百万円マイナスの売上1,000百万円となった。一方で、B事業については顧客開拓が順調に進み前年度から400百万円増の800百万円で着地した。
最後に、今年立ち上げたC事業は初年度にも関わらず200百万円の売上を達成することができた。
「算数的」説明
経営陣やビジネスパートナーに業績を説明するのであれば、短い時間で理解してもらえるような数字の示し方をするべきで「算数的」な見せ方の方が絶対に良いです。定量的に何が重要あるのか?も明確に示すことができますので、手間を惜しまず準備すれば大いに役立ちます。
そして何よりも、ロジックや計算誤りの発見にも力を発揮しますので、ファイナンスパーソンであれば「数字は国語じゃなくて算数で語れ」をフレームワークにしましょう!
2023年2月14日の決算発表で、CAC Holdingsの中期経営計画の実行状況を業績とともに開示しました。その中に、中期経営計画実現に向けた財務戦略の要素を多く盛り込んでいます。
これらの財務戦略は、私が2022年8月に同社に入社し約2か月間で事業理解と財務状況の現状把握を進め、次の2ヵ月で構想を描き、財務戦略方針としてまとめたものです。
2022年12月期の着地実績を踏まえ、決算発表での開示に至りました。
既に一部の施策は開始しているものの、全体的には戦略構想を描いた段階ですので、戦略を確実に「実行」していくことが何よりも重要であることは言うまでもないのですが、「内部留保をどうすればよいのか???」という課題感のあるバランスシートを抱えている日本企業においては同等の取り組みを実現できると思いますので、方針策定に至るまでの過程や背景を書いてみました。IRでは紙面も限られるので、事業会社でファイナンスに関わる企業家の皆様の参考になれば嬉しいです。
なお「CFOとしてXXXが~」というくだりは全て個人的見解です。
目次
CAC Holdingsは1966年に設立された日本で最初の独立系SIerで、現在は国内外に約20社のグループ企業があり、売上高は約500億円、社員4000名ほどの規模の企業です。
Visionは「世界をフィールドに先進のICTをもって新しい価値を創造する」と定めていて、今までのSIerとしての事業を大切にしながらも、技術力を活かして新しいプロダクトやサービスを生み出して世界に貢献していこう、と考えています。
いわゆる「両利き経営」で既存事業と新規事業の取り組みを成立させていく。
多くの歴史ある日本企業が挑んでいるテーマですが、SIer業界も例外ではありません。各社のウェブサイトを見て頂くとよく分かります。みな、同じ方向を向いてます。
この「両利き経営」は本当に厄介なもので、相当なパワーが必要です。「イシューからはじめよ」や「シン・ニホン」など名著の著者である安宅さんがよく仰っているように、既に出来上がった組織でこれを実行するのは困難が伴います。「今あるものを変える」のでは時間がかかりすぎて手遅れになる。作り変えるよりも「新しくゼロからつくった方がよっぽど早い」。これは企業経営に携わっていると直面するリアルな現実だと思います。
CAC Holdingsも例外ではありません。約60年の歴史があり、しかも既存事業であるSIerのビジネスは近年のIT需要とIT人材不足を受けて当面は継続的に成長が見込まれる市場です。リソース不足で受注の機会ロスが発生しているような状態で、現場はかなり忙しく稼働しています。
更に言うならば、SIerというビジネスは巨額の設備投資は必要としません。いわゆるCash Cowなわけです。そのため、直近の業績で言えばもちろんのこと、これら既存事業の成長をないがしろにはできません。引き続き、成長のための人的資本を中心とした投資も必要です。
予測・分析レポート『SIビジネス未来戦略 ポストコロナ編』日経BP【公式】
このように、順調に成長している既存事業を運営しながらも、同時に新たな事業を立ち上げていくことは大変な体力を要します。マインドの変化も必要です。
2022年に発表した当社の目指す姿を示した「VISION2030」においては、こういった課題に立ち向かうため、新規事業の立ち上げについてのコミットメントを明確にしており、CEOを中心にこの変革に挑む体制が出来上がりつつある状況と言えます。
このような事業環境の中で、CAC Holdingsが定めている中期経営計画は以下のようなものです。プロダクト&サービスが「新規事業」にあたり、受託事業が「既存SIer」事業になります。
売上および利益に限らずROEも目標とするべき指標として設定しています。
そして、資本効率性の改善もコミットすべく「エクイティ・スプレッド2.5%」を、株主還元指標を明確にするため「DOE 5%」を、本中期経営計画で目指す指標として新たに定めました。
ROEの目標を10%と置いていますが、これは別記事で書いた通り、国際的に見ても勝負できる資本効率性を実現したいが為です。そのためには伊藤レポートでも示されているように、より高いROEを目指していくべきでしょうが、先ずは目の前の目標として10%を確実に実現することに、本フェーズでは集中すべきと考えています。
エクイティ・スプレッドは2.5%を目標値としています。現在の当社の株主資本コストは約7.5%と試算していますので、ROE10%達成時にはスプレッド2.5%が達成されるべきと考えています。昨年末来の金利情勢により、今後株主資本コストが上昇する可能性がありますので、そのコストをコントロールすることは困難でありながらも、状況は注意して見ておく必要があると考えています。
最後にDOEについて。なぜ、配当の指標としてDOEを採択したのか。それは、当社がこれまで発信していた「安定的な配当」を軸にしつつも、成長投資をしっかりと実行していくために最適な指標と判断したからです。
DOEは「配当総額÷自己資本」の計算式になりますが、分解すれば「ROEx配当性向」になります。従って、成長を実現しROEが高い状態を創れれば、更なる成長加速の投資に資金をまわす。一方で高いROEが達成されない状態であれば、配当性向を高めて株主還元を行う。このように当社の目指す経営方針とピッタリ一致するわけです。
あと細かいですが、実はDOEの算出方法は開示事例を見ていると各社各様です。当社では自己資本配当率を使います。これは目標とするROEの計算式に合わせるためです。5%の水準を目指すのは、上場企業平均である2.5~3.0%を上回る目標を掲げるためであり、当然ながら財務健全性を踏まえた上での目標としています。
CFOとしては、これらの財務指標の達成を目指した活動を広く実行する必要があります。即ち、財務戦略の立案においては、常にVISIONと中期経営計画の達成、これにベクトルが向いている必要があります。そのためには事業戦略についての正しい理解が必要不可欠です。
既存のSIer事業は既に50年以上の歴史があり、多くの大手企業のお客様に支えられている状況で固い道筋が見えるビジネスですが、新規事業はリスク投資の性格が強いと考えています。あまたのスタートアップもそうですが、アーリーステージのビジネスの成功を100%信じる経営はできません。
新規事業立ち上げの経験を積み、組織を強くし、成功確率を上げていくことはできるでしょうが、世の中にプロダクト・サービスを提供し、顧客に受け入れられるのか。それは「やってみなはれ」的な活動をしなくては、グロースする事業となるのか予測するのは困難と言えます。
但し「失敗」したとしても、財務的にリスクを許容できる範囲であれば、果敢なチャレンジを強く後押しするべきだと考えています。それは、経営者人材が育つことで、より強い組織をつくることができ、また事業開発にかかる経験値を得ることができるからです。
当社の行動規範である「FIVE VALUES」の中心には「CHALLENGE」を位置づけており、その文化を醸成するためにも、新規事業開発は最も重要な取り組みであると認識しています。そのため、新規事業については財務的なリスクを管理するため、投資金額の枠の中で、投資を続けます。但し、この枠の中の自由度を最大限に上げ、事業開発スピードを加速させます。それはCFOが負う最重要なタスクの1つです。
この新規事業開発への投資サイクルを力強く推進し続けるためには、既存授業からの安定的なキャッシュが必要になるわけですが、それは現場が汗水流して苦労して稼いできた対価であり、お客様から頂いているお金ですので、果敢に「仕掛け」ながらも大切に使っていかなくてはなりません。
この投資バランスを見ながらも「企業価値を最大化する」ことがCFOのミッションになりますので、財務会計に縛られない、広い範囲でのアクションを取っていきます。
財務指標を目標値として置きましたが、当フェーズにおける財務戦略のテーマはずばり「BE VITAL」です。要は眠っている資産を成長投資にまわし「さぁ仕掛けよう」を体現するためのアクションを取る、という極めてシンプルな話です。
これは昨季のCAC Holdingsの決算書類を見て頂ければわかるのですが、財務的な安全性や健全性はピカイチです。一方でバランスシートが肥大化しているようにも見えます。実際は運転資金の確保等で、そんなでもないのですが。
これらの資産を成長投資にまわすことについて、キャッシュアロケーションの方針を明確に定めることにしました。こういった方針を決める際に本来あるべきは「この事業をやりたいから予算をくれ」からスタートするのでしょうが、今回は「これだけ予算確保するから、何ができるか考えてね」という方面からスタートしています。「枠」がある方が物事を考えやすい側面もあると思いますので、このやり方は、これはこれで良かったかと。CFOがファイナンスの立場でビジネスの意思決定を支援できる一例ではないでしょうか。
「事業からの獲得資金」は、即ち営業キャッシュフローを想定しているわけですが、この恒常的に得られるキャッシュを配当原資と通常の事業で生じる投資に充てます。営業キャッシュフローが継続的に得られると判断できるのは、過去及び将来の市場推移予測に加え、当社の実績と受注トレンドを確認しているからです。
次に「人材投資」は、外部からの人材採用に係る費用と、社員への投資の2つに大別されます。後者の社員への投資は「経営と社員が一体」となって目標に向かっていく組織をつくりたいので、対象となる社員に株式報酬信託制度(JESOP)にて当社「株」を保有してもらう予定です。
そして、このキャッシュアロケーションの肝は「事業投資」です。
投資の原資は主に保有している100億円の現預金、そして100億円の投資有価証券です。加えて必要に応じて借入金によるデットファイナンスを活用します。なお、至極当たり前ですが(当たり前のことを当たり前にやることが大事だと思ってます)これらの資金を適当に投資に配分するわけではありません。
投資においては「調達にかかったコストより高いリターン」を得るのが大原則です。が、これを当たり前と思うなかれ。実態はそのようにしっかりと投資原資と投資対象を紐づけて資金管理を事業全体で行っている組織がどれだけあるでしょうか。
当社では投資原資をどの投資に割り当てるか明確に定めることにしました。大別して2つ。
現預金や有価証券など、既に保有している金融資産はリスクを伴う新規事業への投資に主に活用し、借入金をレバレッジしたファイナンスは既存事業への投資に使います。
新規事業への投資に保有する資産を使う場合は慎重でありつつも、大胆に使うべきだと考えています。「慎重に」というのは現場が汗水流して、お客様から頂いた資金であり、また66年の歴史を経て諸先輩方が残してくれた資産でもあるから。大事に使うのは当然です。「大胆に」というのは、ダイナミックに「しかける」ことをしていかなければならない事業ステージにあると考えるからです。
既存事業については長い歴史もあり、相当な知見を有しています。また、既存事業領域でM&Aを実行する場合には、新規事業とは異なり確度の高い将来キャッシュフローが見込めます。従って。デット・ファイナンスによる調達を行ったとしても、その調達コスト以上のリターンを得られると考えています。当然このような調達戦略を考える場合には、事前に自社がどの程度のコストでいくらほどの金額を、デットで調達できるのか把握しておく必要があります。
投資に際してのハードルはどのように考えれば良いでしょうか。これは変動が激しい業界にいるのかどうか、資金余力はどの程度あるのか、事業は競合に対して成長期にいるのか、又は成熟期や衰退期になるのか、に応じて異なります。
スタートアップ企業であれば、基本的にはエクイティによるVC等からの調達一択(最近はベンチャーデットも活用されはじめているみたいですが)でしょうが、上場企業になると様々な選択肢が取れるので、最適な調達を行わなければ資本効率を最大限に上げていくことができない。ここは、正にCFOやファイナンス組織が考え抜くべきところです。
当社の財務戦略においては、繰り返しになりますが新規事業については財務的なリスクを管理するため、投資金額の枠の中で、投資を続けます。但し、この枠の中の自由度を最大限に上げ、事業開発スピードを加速させることを重視。そのため投資段階での財務的なハードルは敢えて設けていません。勿論、コンプライアンスやセキュリティのリスクがないか、またM&A案件については資産の実在性や簿外債務の有無、その他諸問題が無いかの確認は行いますが、例えば将来の事業計画についての「是非」を厳しく精査することで時間が浪費されるのは避けるようにしています。
良く「社内起業」において「事業計画が通らない」という話を耳にしますが、新しい領域に向かう新規事業について将来を確実に読もうとするのはナンセンスだと考えています。それがわかるなら誰も苦労しない。5年後のPLをつくって、果たしてそれが当たるのでしょうか? 当然、新規事業をリードする人間には真剣にどのように事業を運営していくのか、ビジネスプランの作成を通して知恵を振り絞ってもらいたいですが、5年後の計画の業績の是非をめぐって、いたずらに事業を遅らせるのは得策ではないでしょう。一方で、撤退検討を議論するためのトリガーは必ず設定するルールとしています。これは比較的短期的な指標(例えば年末までに、サービスのユーザーがXXX名になっている、といったようなもの)を置き、それが目標通り進捗しない場合には、投資を停止して撤退するべきか、をしっかり議論して決定します。
新規事業と異なり、既存事業については基本的にはデットファイナンスを活用していきますので、当然ながらその調達コストを上回るリターンを獲得することを投資基準としています。具体的にはハードルレートとして、その調達コストを越えること。撤退基準については新規事業と同じですが、新規事業と大きく異なるのは、確実な事業拡大を狙うため、こちらは業績に関する指標を用いることが自ずと多くなると想定しています。
冒頭に約2か月間で事業理解と財務状況の現状把握を進め、
次の2ヵ月で戦略構想を描き、計4カ月で財務戦略方針としてまとめたものです。
と書きましたが、どのような手順を踏んだのか説明します。
財務戦略を考える前に、まずは事業や起きている事実を確認するのが第一のステップになります。その際CFOであれば、CEOはもとよりマネジメント層としっかりと議論することを行うべきでしょう。自分の場合は、下記のような項目を数十名の方との1-on-1で確認をしていきました。
・市場環境と競合
・強みと弱み
・所管部門のミッション
・経営課題(短期、中長期)
・投資による成長機会
・事業運営上のリスク 等
ヒアリングとディスカッションに加え、組織の外から参画するCFOにおいては、やはり自らの目で、とにかく数字とデータを見まくることが必要だと感じます。数字で違和感を感じたり気になったところを深堀するやり方でも良いかもしれません。何れにしても、初めのうちは「自分で手を動かして生身のデータをみる」ことをしないと、結局のところ「わかった風」で終わりかねないと思います。社内ではまことしやかに語られていることが、データでみると「果たして正しいのか?」となることは、結構あります。
過去複数の企業にいた経験から言うと、データが示されない中で「XXXのはず」「XXXと思われる」「XXXと聞いている」といった説明が行われる場合は要注意です。
当社はグループ全体で20社程度なので、気合で全部見ることはできますが、何百社もある場合はすべては無理でも、連結精算表くらいは見ておくべきだと考えます。
事業と戦略についての理解を深めることで将来キャッシュフローを見積もるための情報を取得し、主に下記のポイントを踏まえて資金余力を正しく把握することを行いました。
・現預金・・・残高、運転資金の確保、キャッシュフロー予測。
・金融資産・・・保守的に算定した場合の換金可能性。
・デット・・・業績、格付、信用力に基づく借入可能枠、調達コスト。
・市場からの調達・・・株主構成の状況、メリット、デメリット。
なお、言わずもがなですが、国内外の経済情勢がかなり不安定であるため、資金余力については最悪シナリオを念頭に置いて試算しています。その他、資金余力の確認は「ある時点」で行えば完了というわけではありませんので、常に状況に変動がないか定期的に資金余力状況を確認するプロセスの構築も行っています。
現在の事業の状況と、資金余力を理解した上で、重要な投資領域と資金配分(キャッシュアロケーション)を決定しました。これは向こう3年間の中期経営計画フェーズ1における配分です。2026年以降のフェーズ2については、現中計の実行状況を踏まえて確定させたいので、2023年時点では決定していません。
当社の場合、本フェーズでは以下の3点が重要な投資領域であると判断しました。
・人的資本投資(決して「人的資本」のはやりに流されたわけではない)
・SIer事業の拡大。まだ成長を続ける領域なのでM&Aも含めて拡大を狙う。
・新規事業の投資。如何にスピード重視で試行錯誤を廻せるか
人的資本への投資総額は、技術者/エンジニアの採用に係る投資が中心です。
採用予定人数x報酬水準と採用に付随するコストに加え、社員エンゲージメントを高めていくための株式報酬制度や人材育成への投資など、各施策の投資予定額を加味して決定しています。
事業投資100億円~の内、SIer事業に係る投資には50億円~を配分しています。主にM&AやR&Dに係る投資を見ています。SIer/IT業界ではM&Aの動きは活発であるものの、多様な案件に取り組むため、投資額については一定の幅を持たせておきたいと考えています。
新規事業への投資については、既に多数のスタートアップ投資を推進していますので、資金余力から上記の人的投資とSIer事業に係る投資を差し引いた後の金額を配分しています。
投資においては「調達にかかったコストより高いリターン」を得るのが大原則です。この原則に従って、前述のとおり投資原資をどの投資に割り当てるか明確に定めています。
・新規事業への投資・・・現預金、金融資産を活用。
・既存事業への投資・・・デット・ファイナンスを活用。
・株主還元や通常の再投資・・・営業キャッシュフローを活用。
上場企業としては短期的な業績のマネジメントにも責任がありますので、これらの大原則を軸にしながらも、特別な事象が起きたときには臨機応変な対応を行う必要があると考えています。特に新規事業については、事業のグロースが見え始めた時には一気に投資を加速するケースが考えられますので、それに耐えうる構造としておかなくてはなりません。
「投資とリターン」のところで述べましたが、新規事業については一律的なハードルレートは設定しておらず、既存事業については資金調達コスト以上のリターンを求めるようにしています。そして、新規も既存も撤退検討開始の基準を設けることを必須条件としています。
これらのルールを確実に実行するためのプロセスを整備しています。具体的には投資を審議する会議体でチェックポイントを設けており、また投資実行後の撤退検討開始基準については、「いつまでに、何が達成できていない」を定量的に定めてリストアップを行います。そのリストを毎月レビューして撤退検討判断時期の到来を確認します。
「撤退基準」については様々な企業を内外から見てきましたが、折角基準を設けてもズブズブであったり、結局何だかんだ理由を付けてズルズル引き延ばしにしたり、といったことは世の中日常茶飯事ですので、そういったことがないようファイナンスとしてしっかりモニタリングすることが重要だと考えています。特に新規事業については財務数値よりもKPIで、且つ個々の事業ごとにしっかり考えた基準を設けていますので、結構頑張ってやれている組織だと思います。
因みに既存事業の投資ハードルについては、現場が腹落ちできて、運用上も耐えうるシンプルな基準を目指したかったのですが最終的にはIRRを使うことにしました。IRRをファイナンスの専門性がない社員に説明し理解してもらうのは、それこそハードルが高い(現在価値の概念をスッと飲み込むのは普通は難しい)ので、できれば避けたかったのですがIRR以上に妥当な指標にたどり着きませんでした。ここは今後の改善機会だと考えています。
ここまで、どのように財務戦略を立案したか、について書いてきましたが、実行されなければただの「絵にかいた餅」です。
そのため「戦略を描く人」で終わってしまっては意味がなく、現場に踏み込んで実行実現までをしつこく追い続けなければなりません。もっと言うならば追いかけるだけではなく、実現が難しいと感じた場合には、自らが実行のリーダーとして発生している障害を取り除き、成長投資を推進するぐらいの覚悟を持ってCFOは望むべきでしょう。
幸いなことに、マネジメントチームの顔ぶれは「やれる」と思わせてくれるメンバーなので、あとはやりきることだと思います。実行、実行、実行あるのみです。
そして、財務戦略の実行状況については、以下の情報を月次でトラッキングすることを始めています。このあたりの実務的にどう運営しているのか?は問題ない範囲で何れ書けたらイイなと思いますが、現状は残念ながら「かゆいところに手が届く」ツールが無いため、ほぼ全ての作業が最強ツールである「エクセル」&「パワポ」頼りになっています。
・投資余力の状況
・投資実行時のハードルレートの達成状況
・投資実行後の撤退基準への抵触有無の状況
・投資実績と残り枠の状況
ちなみに、こういった実行状況の監視について、ハード系企業で見られるような「詰めるレビュー」は意味が薄いというか害悪でしか無いと考えているので「どうやったら加速できるか、横から支援できるか」という議論をリードするツールとして活用していきます。
そして、大事なこととして「最初に決めたことに縛られ過ぎない」ようにする必要があります。キャッシュフロー予測や、経営環境の変化、突発的事項を素早く把握して、臨機応変に最適なオプションを取捨選択していかなくては競争には勝てませんので、財務戦略は「1度つくったら終わり」という類のものでは決してないです。
冒頭の「Developing Financial Strategy」のスライドはGenerative AIのプレゼンテーション作成ツールである Tome - The AI-powered storytelling format に「財務戦略」と入力したら勝手に出来上がってきたスライドです。書いてある内容も違和感が無い。
今回、作成してみたスライドの全編をこちらに貼っておきますが、3分でこのようなスライドが10枚自動で出来上がります。しかも、私が書いた内容とコンセプトとしては殆ど同じことが書かれている・・・。もう近い将来、パワポ作成能力は不要になりそうです。実は本ブログ記事のタイトルもChatGPTが挙げてくれた10個の候補をベースに決めています。
さて、本題に戻って、何が言いたいのかと言うと、Generative AIの躍進には空恐ろしいものがあり、AIの進化で様々な産業に次の変革の時が迫っているのは自明である、ということです。しかもそう遠くない未来。SIerの業態も10年後は相当変わっているのではないかと個人的には考えています。
すなわち、当社としては、次の変革に備えたビジネスの種を生み続ける仕組みを現在の中期経営計画の期間中にカタチあるものにする、大変重要な局面にあると言うことです。
その実現をファイナンスの力で支え、グローバルで闘う日本企業を元気にして日本経済に1ミリでも貢献する。
CFOとして、同じように財務戦略で企業を引っ張っていこうとされている方は沢山いらっしゃると思いますが、そんなファイナンスの同志の皆様の健闘を祈りつつ、自信も努力をし続けます!
Tome - The AI-powered storytelling format
に「財務戦略」と入力したら勝手に3分で出来上がってきたスライドです。
書いてある内容に違和感が無いし、画像もカッコイイ。
あまりに感動且つ面白く、毎回出力内容が異なるので2023年2月時点に出力されたものとして残しておきたく貼ります。
恐らくは、止まらない進化を続けているのでしょう。
もうGenerative AIの力で、パワポ職人が不要になる未来が見えますね。