ファイナンスで日本企業に力を

ファイナンスで日本企業に力を

成長戦略と財務戦略の統合実務 ~日本企業が持続的な成長を実現するために~

Slide by https://beta.tome.app/

 

2023年2月14日の決算発表で、CAC Holdingsの中期経営計画の実行状況を業績とともに開示しました。その中に、中期経営計画実現に向けた財務戦略の要素を多く盛り込んでいます。

これらの財務戦略は、私が2022年8月に同社に入社し約2か月間で事業理解と財務状況の現状把握を進め、次の2ヵ月で構想を描き、財務戦略方針としてまとめたものです。

2022年12月期の着地実績を踏まえ、決算発表での開示に至りました。

 

既に一部の施策は開始しているものの、全体的には戦略構想を描いた段階ですので、戦略を確実に「実行」していくことが何よりも重要であることは言うまでもないのですが、「内部留保をどうすればよいのか???」という課題感のあるバランスシートを抱えている日本企業においては同等の取り組みを実現できると思いますので、方針策定に至るまでの過程や背景を書いてみました。IRでは紙面も限られるので、事業会社でファイナンスに関わる企業家の皆様の参考になれば嬉しいです。

なお「CFOとしてXXXが~」というくだりは全て個人的見解です。

 

目次

 

財務戦略の前にそもそもの事業モデルの話

CAC Holdingsは1966年に設立された日本で最初の独立系SIerで、現在は国内外に約20社のグループ企業があり、売上高は約500億円、社員4000名ほどの規模の企業です。

Visionは「世界をフィールドに先進のICTをもって新しい価値を創造する」と定めていて、今までのSIerとしての事業を大切にしながらも、技術力を活かして新しいプロダクトやサービスを生み出して世界に貢献していこう、と考えています。

いわゆる「両利き経営」で既存事業と新規事業の取り組みを成立させていく。

多くの歴史ある日本企業が挑んでいるテーマですが、SIer業界も例外ではありません。各社のウェブサイトを見て頂くとよく分かります。みな、同じ方向を向いてます。

この「両利き経営」は本当に厄介なもので、相当なパワーが必要です。「イシューからはじめよ」や「シン・ニホン」など名著の著者である安宅さんがよく仰っているように、既に出来上がった組織でこれを実行するのは困難が伴います。「今あるものを変える」のでは時間がかかりすぎて手遅れになる。作り変えるよりも「新しくゼロからつくった方がよっぽど早い」。これは企業経営に携わっていると直面するリアルな現実だと思います。

CAC Holdingsも例外ではありません。約60年の歴史があり、しかも既存事業であるSIerのビジネスは近年のIT需要とIT人材不足を受けて当面は継続的に成長が見込まれる市場です。リソース不足で受注の機会ロスが発生しているような状態で、現場はかなり忙しく稼働しています。

更に言うならば、SIerというビジネスは巨額の設備投資は必要としません。いわゆるCash Cowなわけです。そのため、直近の業績で言えばもちろんのこと、これら既存事業の成長をないがしろにはできません。引き続き、成長のための人的資本を中心とした投資も必要です。

 

予測・分析レポート『SIビジネス未来戦略 ポストコロナ編』日経BP【公式】

SIer市場は当面成長する見込み

 

このように、順調に成長している既存事業を運営しながらも、同時に新たな事業を立ち上げていくことは大変な体力を要します。マインドの変化も必要です。

2022年に発表した当社の目指す姿を示した「VISION2030」においては、こういった課題に立ち向かうため、新規事業の立ち上げについてのコミットメントを明確にしており、CEOを中心にこの変革に挑む体制が出来上がりつつある状況と言えます。

 

中期経営計画と財務指標の目標

このような事業環境の中で、CAC Holdingsが定めている中期経営計画は以下のようなものです。プロダクト&サービスが「新規事業」にあたり、受託事業が「既存SIer」事業になります。

 

売上および利益に限らずROEも目標とするべき指標として設定しています。
そして、資本効率性の改善もコミットすべく「エクイティ・スプレッド2.5%」を、株主還元指標を明確にするため「DOE 5%」を、本中期経営計画で目指す指標として新たに定めました。

 

ROEの目標を10%と置いていますが、これは別記事で書いた通り、国際的に見ても勝負できる資本効率性を実現したいが為です。そのためには伊藤レポートでも示されているように、より高いROEを目指していくべきでしょうが、先ずは目の前の目標として10%を確実に実現することに、本フェーズでは集中すべきと考えています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf

 

エクイティ・スプレッドは2.5%を目標値としています。現在の当社の株主資本コストは約7.5%と試算していますので、ROE10%達成時にはスプレッド2.5%が達成されるべきと考えています。昨年末来の金利情勢により、今後株主資本コストが上昇する可能性がありますので、そのコストをコントロールすることは困難でありながらも、状況は注意して見ておく必要があると考えています。

最後にDOEについて。なぜ、配当の指標としてDOEを採択したのか。それは、当社がこれまで発信していた「安定的な配当」を軸にしつつも、成長投資をしっかりと実行していくために最適な指標と判断したからです。

DOEは「配当総額÷自己資本」の計算式になりますが、分解すれば「ROEx配当性向」になります。従って、成長を実現しROEが高い状態を創れれば、更なる成長加速の投資に資金をまわす。一方で高いROEが達成されない状態であれば、配当性向を高めて株主還元を行う。このように当社の目指す経営方針とピッタリ一致するわけです。

あと細かいですが、実はDOEの算出方法は開示事例を見ていると各社各様です。当社では自己資本配当率を使います。これは目標とするROEの計算式に合わせるためです。5%の水準を目指すのは、上場企業平均である2.5~3.0%を上回る目標を掲げるためであり、当然ながら財務健全性を踏まえた上での目標としています。

 

CFOの役割

CFOとしては、これらの財務指標の達成を目指した活動を広く実行する必要があります。即ち、財務戦略の立案においては、常にVISIONと中期経営計画の達成、これにベクトルが向いている必要があります。そのためには事業戦略についての正しい理解が必要不可欠です。

既存のSIer事業は既に50年以上の歴史があり、多くの大手企業のお客様に支えられている状況で固い道筋が見えるビジネスですが、新規事業はリスク投資の性格が強いと考えています。あまたのスタートアップもそうですが、アーリーステージのビジネスの成功を100%信じる経営はできません。

新規事業立ち上げの経験を積み、組織を強くし、成功確率を上げていくことはできるでしょうが、世の中にプロダクト・サービスを提供し、顧客に受け入れられるのか。それは「やってみなはれ」的な活動をしなくては、グロースする事業となるのか予測するのは困難と言えます。

但し「失敗」したとしても、財務的にリスクを許容できる範囲であれば、果敢なチャレンジを強く後押しするべきだと考えています。それは、経営者人材が育つことで、より強い組織をつくることができ、また事業開発にかかる経験値を得ることができるからです。

当社の行動規範である「FIVE VALUES」の中心には「CHALLENGE」を位置づけており、その文化を醸成するためにも、新規事業開発は最も重要な取り組みであると認識しています。そのため、新規事業については財務的なリスクを管理するため、投資金額の枠の中で、投資を続けます。但し、この枠の中の自由度を最大限に上げ、事業開発スピードを加速させます。それはCFOが負う最重要なタスクの1つです。

 

この新規事業開発への投資サイクルを力強く推進し続けるためには、既存授業からの安定的なキャッシュが必要になるわけですが、それは現場が汗水流して苦労して稼いできた対価であり、お客様から頂いているお金ですので、果敢に「仕掛け」ながらも大切に使っていかなくてはなりません。

この投資バランスを見ながらも「企業価値を最大化する」ことがCFOのミッションになりますので、財務会計に縛られない、広い範囲でのアクションを取っていきます。

 

財務戦略のテーマ

財務指標を目標値として置きましたが、当フェーズにおける財務戦略のテーマはずばり「BE VITAL」です。要は眠っている資産を成長投資にまわし「さぁ仕掛けよう」を体現するためのアクションを取る、という極めてシンプルな話です。

これは昨季のCAC Holdingsの決算書類を見て頂ければわかるのですが、財務的な安全性や健全性はピカイチです。一方でバランスシートが肥大化しているようにも見えます。実際は運転資金の確保等で、そんなでもないのですが。

これらの資産を成長投資にまわすことについて、キャッシュアロケーションの方針を明確に定めることにしました。こういった方針を決める際に本来あるべきは「この事業をやりたいから予算をくれ」からスタートするのでしょうが、今回は「これだけ予算確保するから、何ができるか考えてね」という方面からスタートしています。「枠」がある方が物事を考えやすい側面もあると思いますので、このやり方は、これはこれで良かったかと。CFOファイナンスの立場でビジネスの意思決定を支援できる一例ではないでしょうか。

 

「事業からの獲得資金」は、即ち営業キャッシュフローを想定しているわけですが、この恒常的に得られるキャッシュを配当原資と通常の事業で生じる投資に充てます。営業キャッシュフローが継続的に得られると判断できるのは、過去及び将来の市場推移予測に加え、当社の実績と受注トレンドを確認しているからです。

次に「人材投資」は、外部からの人材採用に係る費用と、社員への投資の2つに大別されます。後者の社員への投資は「経営と社員が一体」となって目標に向かっていく組織をつくりたいので、対象となる社員に株式報酬信託制度(JESOP)にて当社「株」を保有してもらう予定です。

そして、このキャッシュアロケーションの肝は「事業投資」です。

投資の原資は主に保有している100億円の現預金、そして100億円の投資有価証券です。加えて必要に応じて借入金によるデットファイナンスを活用します。なお、至極当たり前ですが(当たり前のことを当たり前にやることが大事だと思ってます)これらの資金を適当に投資に配分するわけではありません。

 

投資とリターンの考え方

投資においては「調達にかかったコストより高いリターン」を得るのが大原則です。が、これを当たり前と思うなかれ。実態はそのようにしっかりと投資原資と投資対象を紐づけて資金管理を事業全体で行っている組織がどれだけあるでしょうか。

当社では投資原資をどの投資に割り当てるか明確に定めることにしました。大別して2つ。

現預金や有価証券など、既に保有している金融資産はリスクを伴う新規事業への投資に主に活用し、借入金をレバレッジしたファイナンスは既存事業への投資に使います。

新規事業への投資に保有する資産を使う場合は慎重でありつつも、大胆に使うべきだと考えています。「慎重に」というのは現場が汗水流して、お客様から頂いた資金であり、また66年の歴史を経て諸先輩方が残してくれた資産でもあるから。大事に使うのは当然です。「大胆に」というのは、ダイナミックに「しかける」ことをしていかなければならない事業ステージにあると考えるからです。

既存事業については長い歴史もあり、相当な知見を有しています。また、既存事業領域でM&Aを実行する場合には、新規事業とは異なり確度の高い将来キャッシュフローが見込めます。従って。デット・ファイナンスによる調達を行ったとしても、その調達コスト以上のリターンを得られると考えています。当然このような調達戦略を考える場合には、事前に自社がどの程度のコストでいくらほどの金額を、デットで調達できるのか把握しておく必要があります。

 

投資に際してのハードルはどのように考えれば良いでしょうか。これは変動が激しい業界にいるのかどうか、資金余力はどの程度あるのか、事業は競合に対して成長期にいるのか、又は成熟期や衰退期になるのか、に応じて異なります。

スタートアップ企業であれば、基本的にはエクイティによるVC等からの調達一択(最近はベンチャーデットも活用されはじめているみたいですが)でしょうが、上場企業になると様々な選択肢が取れるので、最適な調達を行わなければ資本効率を最大限に上げていくことができない。ここは、正にCFOファイナンス組織が考え抜くべきところです。

 

当社の財務戦略においては、繰り返しになりますが新規事業については財務的なリスクを管理するため、投資金額の枠の中で、投資を続けます。但し、この枠の中の自由度を最大限に上げ、事業開発スピードを加速させることを重視。そのため投資段階での財務的なハードルは敢えて設けていません。勿論、コンプライアンスやセキュリティのリスクがないか、またM&A案件については資産の実在性や簿外債務の有無、その他諸問題が無いかの確認は行いますが、例えば将来の事業計画についての「是非」を厳しく精査することで時間が浪費されるのは避けるようにしています。

良く「社内起業」において「事業計画が通らない」という話を耳にしますが、新しい領域に向かう新規事業について将来を確実に読もうとするのはナンセンスだと考えています。それがわかるなら誰も苦労しない。5年後のPLをつくって、果たしてそれが当たるのでしょうか? 当然、新規事業をリードする人間には真剣にどのように事業を運営していくのか、ビジネスプランの作成を通して知恵を振り絞ってもらいたいですが、5年後の計画の業績の是非をめぐって、いたずらに事業を遅らせるのは得策ではないでしょう。一方で、撤退検討を議論するためのトリガーは必ず設定するルールとしています。これは比較的短期的な指標(例えば年末までに、サービスのユーザーがXXX名になっている、といったようなもの)を置き、それが目標通り進捗しない場合には、投資を停止して撤退するべきか、をしっかり議論して決定します。

 

新規事業と異なり、既存事業については基本的にはデットファイナンスを活用していきますので、当然ながらその調達コストを上回るリターンを獲得することを投資基準としています。具体的にはハードルレートとして、その調達コストを越えること。撤退基準については新規事業と同じですが、新規事業と大きく異なるのは、確実な事業拡大を狙うため、こちらは業績に関する指標を用いることが自ずと多くなると想定しています。

 

どのように財務戦略の構築を進めたか

冒頭に約2か月間で事業理解と財務状況の現状把握を進め、
次の2ヵ月で戦略構想を描き、計4カ月で財務戦略方針としてまとめたものです。
と書きましたが、どのような手順を踏んだのか説明します。

 

1. 事業内容、投資機会、リスクを把握する

財務戦略を考える前に、まずは事業や起きている事実を確認するのが第一のステップになります。その際CFOであれば、CEOはもとよりマネジメント層としっかりと議論することを行うべきでしょう。自分の場合は、下記のような項目を数十名の方との1-on-1で確認をしていきました。

 ・市場環境と競合

 ・強みと弱み

 ・所管部門のミッション

 ・経営課題(短期、中長期)

 ・投資による成長機会

 ・事業運営上のリスク  等

 

ヒアリングとディスカッションに加え、組織の外から参画するCFOにおいては、やはり自らの目で、とにかく数字とデータを見まくることが必要だと感じます。数字で違和感を感じたり気になったところを深堀するやり方でも良いかもしれません。何れにしても、初めのうちは「自分で手を動かして生身のデータをみる」ことをしないと、結局のところ「わかった風」で終わりかねないと思います。社内ではまことしやかに語られていることが、データでみると「果たして正しいのか?」となることは、結構あります。

過去複数の企業にいた経験から言うと、データが示されない中で「XXXのはず」「XXXと思われる」「XXXと聞いている」といった説明が行われる場合は要注意です。

当社はグループ全体で20社程度なので、気合で全部見ることはできますが、何百社もある場合はすべては無理でも、連結精算表くらいは見ておくべきだと考えます。

 

2. 資金余力を正しく把握する

事業と戦略についての理解を深めることで将来キャッシュフローを見積もるための情報を取得し、主に下記のポイントを踏まえて資金余力を正しく把握することを行いました。

 ・現預金・・・残高、運転資金の確保、キャッシュフロー予測。

 ・金融資産・・・保守的に算定した場合の換金可能性。

 ・デット・・・業績、格付、信用力に基づく借入可能枠、調達コスト。

 ・市場からの調達・・・株主構成の状況、メリット、デメリット。

なお、言わずもがなですが、国内外の経済情勢がかなり不安定であるため、資金余力については最悪シナリオを念頭に置いて試算しています。その他、資金余力の確認は「ある時点」で行えば完了というわけではありませんので、常に状況に変動がないか定期的に資金余力状況を確認するプロセスの構築も行っています。

 

3. 成長投資のキャッシュアロケーションを決定する

現在の事業の状況と、資金余力を理解した上で、重要な投資領域と資金配分(キャッシュアロケーション)を決定しました。これは向こう3年間の中期経営計画フェーズ1における配分です。2026年以降のフェーズ2については、現中計の実行状況を踏まえて確定させたいので、2023年時点では決定していません。

当社の場合、本フェーズでは以下の3点が重要な投資領域であると判断しました。

 ・人的資本投資(決して「人的資本」のはやりに流されたわけではない)

 ・SIer事業の拡大。まだ成長を続ける領域なのでM&Aも含めて拡大を狙う。

 ・新規事業の投資。如何にスピード重視で試行錯誤を廻せるか

 

人的資本への投資総額は、技術者/エンジニアの採用に係る投資が中心です。

採用予定人数x報酬水準と採用に付随するコストに加え、社員エンゲージメントを高めていくための株式報酬制度や人材育成への投資など、各施策の投資予定額を加味して決定しています。

事業投資100億円~の内、SIer事業に係る投資には50億円~を配分しています。主にM&AやR&Dに係る投資を見ています。SIer/IT業界ではM&Aの動きは活発であるものの、多様な案件に取り組むため、投資額については一定の幅を持たせておきたいと考えています。

新規事業への投資については、既に多数のスタートアップ投資を推進していますので、資金余力から上記の人的投資とSIer事業に係る投資を差し引いた後の金額を配分しています。

 

4. 成長投資の対象と資金調達方法を紐づける

投資においては「調達にかかったコストより高いリターン」を得るのが大原則です。この原則に従って、前述のとおり投資原資をどの投資に割り当てるか明確に定めています。

 ・新規事業への投資・・・現預金、金融資産を活用。

 ・既存事業への投資・・・デット・ファイナンスを活用。

 ・株主還元や通常の再投資・・・営業キャッシュフローを活用。

 

上場企業としては短期的な業績のマネジメントにも責任がありますので、これらの大原則を軸にしながらも、特別な事象が起きたときには臨機応変な対応を行う必要があると考えています。特に新規事業については、事業のグロースが見え始めた時には一気に投資を加速するケースが考えられますので、それに耐えうる構造としておかなくてはなりません。

 

5. 成長投資実行時のハードルと撤退基準を整備する

「投資とリターン」のところで述べましたが、新規事業については一律的なハードルレートは設定しておらず、既存事業については資金調達コスト以上のリターンを求めるようにしています。そして、新規も既存も撤退検討開始の基準を設けることを必須条件としています。

これらのルールを確実に実行するためのプロセスを整備しています。具体的には投資を審議する会議体でチェックポイントを設けており、また投資実行後の撤退検討開始基準については、「いつまでに、何が達成できていない」を定量的に定めてリストアップを行います。そのリストを毎月レビューして撤退検討判断時期の到来を確認します。

「撤退基準」については様々な企業を内外から見てきましたが、折角基準を設けてもズブズブであったり、結局何だかんだ理由を付けてズルズル引き延ばしにしたり、といったことは世の中日常茶飯事ですので、そういったことがないようファイナンスとしてしっかりモニタリングすることが重要だと考えています。特に新規事業については財務数値よりもKPIで、且つ個々の事業ごとにしっかり考えた基準を設けていますので、結構頑張ってやれている組織だと思います。

因みに既存事業の投資ハードルについては、現場が腹落ちできて、運用上も耐えうるシンプルな基準を目指したかったのですが最終的にはIRRを使うことにしました。IRRをファイナンスの専門性がない社員に説明し理解してもらうのは、それこそハードルが高い(現在価値の概念をスッと飲み込むのは普通は難しい)ので、できれば避けたかったのですがIRR以上に妥当な指標にたどり着きませんでした。ここは今後の改善機会だと考えています。

 

6. 成長投資の実行状況をしつこく追いかける

ここまで、どのように財務戦略を立案したか、について書いてきましたが、実行されなければただの「絵にかいた餅」です。

そのため「戦略を描く人」で終わってしまっては意味がなく、現場に踏み込んで実行実現までをしつこく追い続けなければなりません。もっと言うならば追いかけるだけではなく、実現が難しいと感じた場合には、自らが実行のリーダーとして発生している障害を取り除き、成長投資を推進するぐらいの覚悟を持ってCFOは望むべきでしょう。

幸いなことに、マネジメントチームの顔ぶれは「やれる」と思わせてくれるメンバーなので、あとはやりきることだと思います。実行、実行、実行あるのみです。

 

そして、財務戦略の実行状況については、以下の情報を月次でトラッキングすることを始めています。このあたりの実務的にどう運営しているのか?は問題ない範囲で何れ書けたらイイなと思いますが、現状は残念ながら「かゆいところに手が届く」ツールが無いため、ほぼ全ての作業が最強ツールである「エクセル」&「パワポ」頼りになっています。

 ・投資余力の状況

 ・投資実行時のハードルレートの達成状況

 ・投資実行後の撤退基準への抵触有無の状況

 ・投資実績と残り枠の状況

 

ちなみに、こういった実行状況の監視について、ハード系企業で見られるような「詰めるレビュー」は意味が薄いというか害悪でしか無いと考えているので「どうやったら加速できるか、横から支援できるか」という議論をリードするツールとして活用していきます。

そして、大事なこととして「最初に決めたことに縛られ過ぎない」ようにする必要があります。キャッシュフロー予測や、経営環境の変化、突発的事項を素早く把握して、臨機応変に最適なオプションを取捨選択していかなくては競争には勝てませんので、財務戦略は「1度つくったら終わり」という類のものでは決してないです。

 

まとめ

冒頭の「Developing Financial Strategy」のスライドはGenerative AIのプレゼンテーション作成ツールである Tome - The AI-powered storytelling format に「財務戦略」と入力したら勝手に出来上がってきたスライドです。書いてある内容も違和感が無い。

今回、作成してみたスライドの全編をこちらに貼っておきますが、3分でこのようなスライドが10枚自動で出来上がります。しかも、私が書いた内容とコンセプトとしては殆ど同じことが書かれている・・・。もう近い将来、パワポ作成能力は不要になりそうです。実は本ブログ記事のタイトルもChatGPTが挙げてくれた10個の候補をベースに決めています。

 

さて、本題に戻って、何が言いたいのかと言うと、Generative AIの躍進には空恐ろしいものがあり、AIの進化で様々な産業に次の変革の時が迫っているのは自明である、ということです。しかもそう遠くない未来。SIerの業態も10年後は相当変わっているのではないかと個人的には考えています。

すなわち、当社としては、次の変革に備えたビジネスの種を生み続ける仕組みを現在の中期経営計画の期間中にカタチあるものにする、大変重要な局面にあると言うことです。

その実現をファイナンスの力で支え、グローバルで闘う日本企業を元気にして日本経済に1ミリでも貢献する。

CFOとして、同じように財務戦略で企業を引っ張っていこうとされている方は沢山いらっしゃると思いますが、そんなファイナンスの同志の皆様の健闘を祈りつつ、自信も努力をし続けます!